「正義のヒーロー」を小説化してみる②

前回の続き。


「ねえ…そろそろ時間切れだよ?
 ハートスワップの効き目が切れちゃうよ?」

海岸では、マナフィバシャーモに伝えていた。

「そうか…よし、マナフィは隠れていてくれ。
 元に戻った途端にお前が見つかったら面倒だ…」

バシャーモの言葉に従い、マナフィは一旦、海の中に隠れた。

その頃、少年は逃げようとする不良に対して…

『逃がさないぞ!かえんほうしゃ!!』

少年の口から紅蓮の炎が放出され、不良を襲った。

『どうだ!この僕がいる限り悪は栄えない!』

少年は得意気になっていた。
その時、ハートスワップの効き目が切れ、
少年の心は元の体へと戻っていった。

『あれ??どうしたんだろう?ここはさっきの場所??』

少年は不思議そうに周りを見渡し、そして自分の手を見つめた。

『元に戻ってる…もしかして今までのは全部夢だった…?
 ずっと夢を見てたって事?
 …そうだよね…僕がヒーローなんてあり得ないよ…』

少年は何だか気が抜けたように家に帰っていき、
いつも観ている大好きな戦隊番組を観ていた。

「待て、悪の科学者ネジキラス!お前の」野望もここまでだ!
 ゴウカレッド!ルカブルー!ジュカグリーン!
 エレキイエロー!トゲホワイト!
 不思議戦隊ポケモンジャー!!」

『やっぱりかっこいいなあ…僕もあんな強くて
 かっこいいヒーローになって悪い奴をやっつけたいよ…
 さっきのが夢じゃなかったらよかったのに…』

そんな事を考えながら、番組を最後まで観終えた。
そしてその後、特に観る番組も無くて、適当にチャンネルを変えていたら
信じられないニュースが報じられていた。

「ニュースです。今日、学生が連続で何者かに
 襲撃される事件がありました」

その後、その現場が画面に映り、少年は目を疑った。
少年の見覚えのある場所だった。

『これ…この近所だ!!』

「被害にあった8人はいずれもいずれも全身に火傷を負い重体…
 現場では白い長髪の人物が目撃されており…」

『白い長髪…??それってまさか…バシャーモ!?
 夢じゃなかったんだ…僕、本当にヒーローになったんだ!!』

その頃、海辺ではマナフィのいた場所に元の体に戻った
バシャーモが戻ってきていた。

「あ、バシャーモ、戻ってきたんだね!それで、どうだった?」

バシャーモは、静かな口調で答えた。

「人間の言う正義とは何なのかよく分かった気がする…そして…」

バシャーモは、突然険しい顔に変わった。

「俺の体を貸したのは…間違いだった!!」




次の日。
マナフィバシャーモは、またあの海辺にいた。

「…ねえ…バシャーモ、昨日は体を貸したの間違いだって言ってたのに…
 本気なの??」

バシャーモは、険しい顔で答えた。

「ああ…そうしなければ奴にはわからないだろうからな…
 …来たぞ…奴だ!!」

少年は、バシャーモと入れ替わったあの場所に来ていた。

『確か昨日は、ここで居眠りしてたんだ…
 そうしたら、バシャーモになっていたんだっけ…
 またなりたいな…バシャーモに…』

そんな少年の様子を見ていたバシャーモは、改めてマナフィに頼んだ。

「奴も望んでいる…やってくれ、マナフィ…」

「う、うん…わかった!!」

マナフィは少年に悟られないように、技を発動した。

「ハートスワップ…!!」

再び少年とバシャーモの中身が入れ替わった。

少年は、再び自分の体が変化した事に気付いた。

『あれ…??僕、また…!?
 やった…僕、またバシャーモになれたんだ!!』

バシャーモになった少年は、再びヒーローになれる喜びに酔いしれていた。

『ようし、今日も悪者退治だ、行くぞ!!』

決意も新たに、町に繰り出していった。
一方、少年の体になったバシャーモは…

「よくやってくれたマナフィ、奴も喜んでいるようだな」

しかしマナフィは、困惑した顔でバシャーモに訊ねた。

バシャーモ…僕わからないよ…あの子に体を貸したのが
 間違いだと言っておいてまた入れ替わるだなんて…」

「気になるか?ついてこいよ…教えてやる!」

バシャーモマナフィを連れて、少年の後をつけていった。
そして…衝撃的な光景を目の当たりにしていた。

『ブレイズキック!!』

少年は、バシャーモの体で技を繰り出していた。
しかし、その表情は不安と困惑に満ちていた。
無理も無い。彼が技を繰り出した相手は、警察官だったのだ。

『そんな…どうして僕がおまわりさんに追いかけられなきゃいけないんだ…
 僕は…僕は正義のヒーローなのに!!』

少年の目の前には、自身が攻撃して倒した警察官が倒れている。
近くのパトカーでは、婦人警官が無線で連絡をとっていた。

「例の人語を喋る通り魔バシャーモが現れました!
 大至急、応援を!!」



町では、警官達がバシャーモを探し回っていた。
そのバシャーモの中身が、人間の少年とも知らずに。

「どこに行ったんだ!?あのバシャーモ
 何人もの人を襲った凶悪な奴なんだぞ!
 これ以上被害を出してはならん!一刻も早く捕まえるんだ!」

少年は、その様子を悲しそうな表情で見ていた。

『どうして僕がこんな目に…悪者をやっつけた僕が…
 僕は正義のヒーローなのにどうして!!』

「いたぞ!こっちだ、捕まえろ!!」

『…!!逃げなきゃ!!』

少年は、とにかくひたすら逃げ回っていた。
その様子を見ていたマナフィも、戸惑っていた。

「どういう事!?正義のためにバシャーモの力を使ったあの子が
 どうしてこんな事に!?」

その問いに、バシャーモは冷静な様子で答えた。

「正義…そう思っているのはあいつだけだよ!
 あれは俺の体だ…生身の人間になら簡単に勝てる…
 悪い人間なんて簡単に倒せる…
 でもそんなのは正義のヒーローのする事じゃない…
 ただの弱い者苛めだ…」

マナフィは、驚きの表情を浮かべた。
バシャーモは、さらに語り続ける。

「ヒーローが力を振りかざして悪を倒すのは
 悪がヒーロに釣り合うぐらいに強い時だけだ…
 人間というのは力こそ正義と勘違いする者が多い…
 結局あいつもそうだったんだな…
 あいつの悔しそうな様子を見て体を貸してやったが
 間違いだった…
 だからまた入れ替わってやったんだ…
 あいつ自身に教えるためにな…
 お前は正義のヒーローなんかじゃないと…」

そんな話をしていた頃、少年は、もはや町にはいられないと悟り
山の方角へと逃げていた。
そして…バシャーモは少年の体から何か糸のような物が
切れるような感覚を感じた。
マナフィもそれに気付いたのか、悲しそうにその事を切り出した。

「あ、バシャーモ!!今の…」

「わかっている…あいつが俺の体のまま
 遠くに離れていったらしいな…」



あれから3日が過ぎた。
バシャーモは、未だ入れ替わった少年の姿のままだった。
マナフィと海辺でまた話し合っているようだ。

バシャーモ…あれから3日経つけど、調子はどう?」

バシャーモと呼ぶな…俺はもう人間なんだから…」

マナフィは、申し訳なさそうにバシャーモに話した。

「まさかこんな事になっちゃうなんて…
 ハートスワップは入れ替わった同士が遠く離れると
 元に戻れなくなるんだ…」

バシャーモは、わかっている、という表情で続きを語った。

「しかもそうなるとハートスワップに耐性がついて二度と効かない…
 つまり俺とあいつは一生入れ替わったままだ…
 マナフィが気にすることは無い…俺が言い出した事だ…
 それに俺も今はこいつになりきって上手くやってるよ…
 人間の言葉は話せないけど、人間は過保護だからな…
 こいつの親が病気か何かだと思ってどうにかしてくれるしな」

しかしマナフィは、もう1つ気になる事があった…

「でもあの子はバシャーモの体のままどこに行っちゃったんだろう…」

「さあな…俺の体で好き勝手やった報いだ…
 俺はそんな体に2度と戻りたくはなかったし、
 奴がどこかに逃げていって元の体に戻れなくなったのは好都合だ…
 どこでどうなろうと知った事か…」

バシャーモ…まさか君は2度めの入れ替わりの時…
 元に戻れなくなる事を狙ってたの…??」

バシャーモは、口元で密かに微笑んでいた。

バシャーモの体になった少年は、とある山奥に逃げ込んでいた。

『どうしてこんな事になっちゃったんだろう…
 僕は正義のヒーローになりたかったのに…それなのに…
 人間達は悪い人間をやっつけた僕を悪いポケモンだと言っていた…
 だとしたら…』

少年の手から、炎が噴出した。

『本当の悪は…人間なんだ!!もう僕が正義でも悪でも
 どうでもいい…人間なんて許しておけない!!
 人間は…全て敵だ!!』

少年は怒りに打ち震え、全身から熱を発していた。
もはや彼の中にあるのは、人間に対する憎しみのみだった。

↓原作